独りだけを乗せたリムジンバスは、どしゃぶりの中、香港島から九龍側へと渡り、空港へと向かっていた。
「生き馬の目を抜くのは東京じゃない・・・ここだ」
一般企業も塾も厳しい経営環境が続き個人の生活も大変。日本を離れて香港で仕事をする人は多いようで少ない。この不況と新型インフルエンザの影響で帰国ラッシュも一部で起きている。
「香港での日本人教育の圧倒的シェア獲得。地元の自営業者の子弟も通う塾を目指せ」
雨男が帰ったら止んでくれるのか? まだ低く厚い雲が広がっている。
「わたしは日本人だけど・・・もう41年香港に住んでるのよ」
ガイドは眠らせてくれない・・・広すぎるリムジンも落ち着かない。
「豚インフルエンザで観光客が極端に少ないのよ・・・もう香港は大丈夫なのに」
VIPじゃない雨男だ。似合うのは雨合羽と貧相なタクシーだ。
SOHOで飲んだ友人の弔い酒。
「ジャズが好きだった」
蘭桂坊に場所を移してまた飲む。
「最新のコンテンツと人間力で展開するしかない」
「いや・・・組織って沢山の林檎でできてるからさ、成熟して甘くなる部分もあるけど腐っていく部分もある・・・トップはクールにそれを見極めて、腐った部分は・・・」
銅羅湾(CAUSEWAY BAY)のExcelsior。地下に老舗のBARがある。
「この時間、イギリス人はここでサッカー観戦なんだ」
タバコの煙と様々な国の言葉が広いBARの中で揺れる。
海鮮料理で打上げ。
最高の人の講演が実現したが、次も大物が実現しそうだ。
「それに追いつくのが大変」
気持ちのよいプレッシャーが彼を襲っていて・・・また酒を飲み煙を吐く・・・。
白河夜船・・・で
「うちを買ってくれと言いにいけば、もしかすると『いやうちこそ買ってほしい』と言われるかも・・・そこですかさず『買います!』と・・・これで決まり!」
夢は幾重にもなり、夜は永遠に終わらないように感じるのだが?
帰国の便はガラガラだ。なぜか機内は不思議な緊張感が漂う。
「アノ人見たことある!」
マイケルならぬ元ソーリーがSPを従えてシャトルに乗り込む。
SPと見詰め合う・・・世界を股にかけるビジネスマンたちは白けている。
二年前の横浜。491ハウスの奥。ライブのジャズが流れる。
店長のスズキ君がギネスを三つ運んでくる。
「香港行ってみたいなあ」
「じゃあ来てください・・・仕事で」
「決まった・・・乾杯!」
その彼は今は神の元に帰ってしまった。
機内での夢・・・文武廊の近く。線香の少し匂う中で
「いまでも俺は部屋に遺品を飾って・・・」
「嫌なんだよなあ・・・男が言葉に詰まっての」
ビールがさらに苦くなっていき・・・高度は急激に下がる
澳門のカジノが記憶の中で一瞬煌いて・・・成田のターミナル出口で消えた。
豚々拍子
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