T塾で、幹部の一人が交通事故を起こした。幸い軽傷で済んだが一週間の入院。しかし、相手が悪かった。
「結婚を目前にした27歳の女性で顔に傷をつくってしまったから、父親が烈火のごとく怒って幹部の自宅にどなりこんできたんだ」
加害者は四輪で被害者は二輪、しかも交差点の近い場所で、ガソリンスタンドに入るため四輪が渋滞した対向車線を抜けようとした瞬間に事故が起きた。
「一時停止はしたが、前方不注意と言われても仕方がない。バイクにも落ち度がなかったわけではないが、四輪がそろりと入れば避けられた事故だと警察に言われた・・・保険会社からは“保険で全て解決できるから”という理由で裁判などにはしないように説得された」
社員思いの塾長はこう語る。
「生徒へのイタズラ、女性社員のセクハラ、横領などについては厳罰としているが、交通事故については故意の暴走や飲酒運転でなければ、できるだけ本人の反省と今後の意欲を配慮して処遇するようにしている・・・」
とは言っても、会社に対してマイナスを与えたから、何らかの罰則が必要だ。
「停職とか減給ね・・・マイナスがマイナスを生む論理だが、ある程度の痛みは仕方がない。だから、階級を一つ下げて、校長は現場の講師に、部長は課長に一ヶ月格下げだ。減給はないが、その分一ヶ月後に仲間にご馳走する・・・“年季明け”って感じでも」
かつて、校長会議で社長は車で集まった女性社員に「少しぐらいなら飲んでもいいだろう。後で冷ましていけば大丈夫」と言って会議後の会食でビールを飲ましてしまった。当時は「乾杯ビールの一杯くらいは・・・」という時代だった。車を運転しているからといってもお茶やジュースで乾杯は許されない時代だったのだ。しかし、それは言い訳にはならなかった。
「その女性社員は酒が弱かったのにビールを二杯飲んで、帰り道に人身事故を起こしてしまった。本人は“自分が悪い”と言ったが、私もその子の親も“悪いのは私だ”と思っていた。“酒は飲まされた”と・・・」
女性社員は今でも会社で元気に働いている。