一昔前の話になる。
R塾で、大幹部が仕切っていたプロジェクトが立ち行かなくなり、メンバーが解散となった。二人が離職、一人が転属、そしてリーダーの大幹部の去就が注目されたが・・・社長は「社長室付け」にした。その意図は?
「辞めさせるわけにはいかない。有能かどうかは問題ではなく、仕事の中身とか結果じゃなくてさ、人間的な存在感? 同世代の付き合いも大事だし・・・一緒に時代を生きてきているから、会社の浮き沈みの歴史を知っている貴重な人間だ」
大幹部は特に決まった仕事もなく、後輩たちの支援という立場で働いたが、数年後、出張先の飲み屋で客死した。肝臓癌だったが、身内にも内緒にしていた。知っていたのは社長だけだった。通夜のあと社長は一人静かに泣いた。
「あいつは社員の鏡ではなかった・・・俺を映す鏡だったんだ。若い時は付き合っている女が自分を映す鏡だが、このトシになると皆仕事が恋人だ。そんな時、同世代の理解者がいるかどうかが問題だ。あいつのお陰で俺はストレスが溜まらなくて済んだが、あいつは・・・」
孤独なトップ。よく「役に立たない顧問や幹部をなぜ置いとくのか?」と女性社員たちが不思議に思うようだが、社員に話せないことを話す相手がいなとトップはストレスを溜めるだけ身体を壊していくのだろう。
「社長はもっと働かないと駄目だって言われるけどさ、働きすぎると社員に嫌われるし育たない。それに社長が突然働けなくなったら誰が代わりを務める? 若手を育てるためには、トップと同世代の人間を後見人として据えておいたほうがいいんだよ」
自分で納得するように社長は頷きながら呟いた。